抄録
介護保険の導入を踏まえ, 地域で社会生活を営み病院に通院している有病高齢者の口腔の状態やニーズを把握することは重要である。本研究では, 高齢社会における歯科医療の役割を認識するための具体的な資料を提供することを目的に, 通院高齢者の口腔内調査を行った。
対象は, 国立療養所中部病院歯科の外来初診患者のうち65歳以上の高齢者119名 (平均年齢74.8±6.2歳) である。評価項目は, 性別, 年齢, 患者の主訴, 基礎疾患, ADL, 食事の性状, 咀嚼状況, 口腔衛生状態等をレントゲン, 口腔内診査等にて評価した。その結果以下のことが判明した。
1. 主訴は, 義歯不適合が一番多く39%を占めた。また, 処置内容は, 義歯作成が35%と最も多かった。一方, 抜歯を含めた観血処置は24%であった。
2. 対象患者の有病率は82%であった。日常生活動作について, 生活自立者が66%であったが, 準寝たきり以上の高齢者は23%認められた。
3. 移動能力については, 観察誘導を含め介助を必要とする者が3分の1程度認められた。移動手段としてなんらかの補助が必要な患者は34%であった。
4. 食事については要介護患者が1割であった。食事内容としては普通食75%であり, 高齢者の4人に1人が軟らかい食事を摂取していた。
5. 口腔ケアの自立度では, 約1割の高齢者が介護を必要とする状態であった。