近年, 顎口腔系機能と全身の機能との関連, 特に, 咀嚼機能と脳機能との関連が注目されている。また, 高齢者においては, 咬合・咀嚼が全身の健康保持や寝たきりおよび痴呆の予防などのために重要な役割を果たしていることが示唆されている。
本研究では, 老人病院に入院中の36名 (男性9名, 女性27名, 平均年齢82±8.3歳, 全部床義歯装着者26名, 部分床義歯装着者10名) の要介護高齢者における咀嚼機能と痴呆および自立度との関連について調査を行ったところ以下の結果を得た。
使用中の義歯の適否を表わす「義歯スコア」と「痴呆スコア」との間には, 統計学的に有意な相関が認められた (p<0.01) 。なお, 「義歯スコア」を「不良」と「良好」の2群に分けた場合, 「義歯スコア不良群」では75%の対象者が痴呆と判定されたのに対し, 「義歯スコア良好群」においては, 45%と有意に減少していた (p<0.05) 。
「義歯スコア」と「自立度スコア」の間には統計学的に有意な相関が認められた (p<0.01) 。なお, 「義歯スコア良好群」においては, 「不良群」に比して, 「準寝たきり者」の割合が有意に増加していた (p<0.05) 。
「義歯スコア」と「MDS/RAPs」においては, 「義歯スコア不良群」では, 「痴呆状態・認知障害の検討」, 「望ましい人間関係 (心理社会的充足) の検討」, 「気分と落ち込みの検討」, 「口腔ケアの検討」, 「じょく創の兆候」の問題領域を選定された者が多かった。
以上の結果から, 要介護高齢者における咀嚼機能と痴呆および自立度との間には, 密接な関連があることが示唆された。
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