抄録
痴呆患者における義歯装着行為の障害の実態を明らかにする目的でその観察を行い, あわせて痴呆の進行程度と義歯装着行為の可否との関連性を検討した。対象は上下床義歯装用中の痴呆症例27例で, うち12例がアルツハイマー型痴呆であった。対象中, 義歯装着行為に障害のない装着可能群が14例 (平均67.4歳) および障害を伴う装着不能群が13例 (同70.7歳) であった。
義歯装着行為の観察の結果, 装着不能群では認識や行為の障害, すなわち失認や矢行のために, 義歯という物品の使用法やその形態の正しい認識ができなかったり, 自分の身体と義歯との対応関係および空間的位置関係がつかめず, 義歯装着に失敗することが確認された。
一方, 対象に見当識に関わる1「氏名」, 2「生年月日」, 3「満年齢」, 4「入院病棟番号」, 5「病棟主治医の姓」, 6「当日の日付」の6項目の質問を行って, 各項目ごとに正答者の割合 (以下, 正答者率) を求めた。その結果, 対象全体の正答者率は, 項目1の100%から項目6の0%へと単調に減少し, 正答可能な項目によって痴呆の評価が可能と考えた。
さらに各項目ごとに正答者率と義歯装着行為の障害の有無との関連性を検討した。対象全体では装着可能群の正答者率は項目1, 6以外で装着不能群より高かったが, いずれの項目においても両群間に有意 (p<0.05) の差を認めなかった。アルツハイマー型痴呆では, 「生年月日」の項目における装着可能群の正答者率が装着不能群に比べて有意 (p<0.05) に高く, 本項目が義歯装着行為の障害の有無を予測するのに有用と考えた。