2003 年 18 巻 2 号 p. 134-138
近年, 口腔細菌が高齢者の各種全身疾患に影響を及ぼすことが明らかとなり, 口腔ケアの重要性が指摘されている。筆者らは, 高齢者の口腔ケアを自立度 (自立, 一部介助, 全介助) と口腔状態 (歯数と義歯の有無) から9つのカテゴリーに分類した「高齢者口腔ケア分類表」を作成し, それぞれに対応したオーダーメードの口腔ケア方法を考案してその効果を細菌学的手法を中心に検討を進めている。
前報では, 多数歯を有する要介護者の口腔ケアを安全かつ効果的に行なうために, 清掃のための給水と誤嚥を避けて汚水の吸引を同時に可能にした電動ブラシシステム (給吸ブラシ) を要介護高齢者に使用を試み, その効果を細菌学的に明らかにした。さらに, 有料老人ホーム入所者の自立者と要介護者に対して, 現在行なっている口腔清掃法による口腔状態を細菌学的に評価し, その結果に基づいた個別の口腔ケア法を自立者およびヘルパーに提案し, その効果を明らかにした。
今回は, 無歯顎で総義歯を有する要介護者の効果的な口腔ケア法を確立するために, 特別養護老人ホーム入所者で, 舌, 顎堤および義歯からカンジダ菌数が103レベルで検出された要介護者を対象に, 給吸ブラシ用の粘膜ブラシを試作し, 粘膜および義歯清掃 (物理的清掃後, 化学的清掃, 再度物理的清掃) を5日間行なった効果をカンジダ菌数の変化を指標として調査した。その結果, 調査初日では, 粘膜および義歯清掃前後で, 舌, 顎堤, および義歯ともにカンジダ菌数の減少は明らかではなかったが, 給吸ブラシ (粘膜用) による粘膜清掃および義歯清掃の併用によりカンジダ菌数の有意の減少が見られた。本清掃法の毎日の励行は無歯顎で総義歯を有する要介護者にとって効果的な口腔ケア法であることが明らかとなった。