介護老人保健施設における訪問歯科診療受診者の全身状況, 服薬情報, 口腔内状況の調査が地域歯科医師会として, 診療にあたる歯科医師, 歯科衛生士の知識と技術の向上につながると考え調査検討した。対象者を入所棟別に一般棟入所者 (59名), 痴呆棟入所者 (25名) に分類し, さらに年齢の中央値である82歳以上, 未満に分けて検討し, 以下の結果を得た。
.1 全身疾患には対象者全員が罹患しており, 罹患数, 罹患傾向は変わらず平均3.5疾患罹患していた。種類では, 高血圧症が最も多く (54名), 脳血管疾患 (40名), 心疾患 (18名) など, 循環器系疾患が多かった。
2. 一人平均服用薬剤数は4.3剤で年齢の上昇により増加傾向を示した。消化器系, 神経系, 循環器系に作用する薬剤の順に多かった。一般棟入所者, 痴呆棟入所者, 82歳以上, 未満で差異はなかった。
3. 訪問歯科診療申し込み理由, 治療内容は義歯関連が多かった。
4. 対象者全員の一人当たりの残存歯数は5.3本, 有歯顎者は58.3% (49名) で9.1本の残存歯を有していた。無歯顎者は41.7% (35名) であった。一般棟入所者4.8本, 痴呆棟入所者6.5本と一般棟入所者の方が少なかった。82歳以上で両入所者ともに残存歯数は減少した。一般棟入所者では82歳以上, 未満で有意差が認められた (P<0.05) 。上顎と下顎の残存歯数を比較すると, 一般棟, 痴呆棟入所者とも下顎残存歯が有意に (P<0.05) 多かった。
5. 残根歯数は, 一般棟入所者の方が有意に (P<0.01) 多かった。一般棟では, 82歳未満入所者で有意に (P<0.01) 多かったが, 痴呆棟では, 82歳以上入所者で有意に (P<0.05) 多かった。
訪問歯科診療の実施には, 高齢者をよく理解し, 歯科的問題点の他に身体機能の自立度, 全身疾患, 服薬情報等を加味し, 診療方針を立案する必要があると再認識した。
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