抄録
近年, 高齢者の口腔ケアの重要性が指摘されている。口腔内環境を悪化させる原因としては, 片麻痺等の舌や頬の運動不全による多量食物残渣が考えられる。摂食後の口腔内残留量を評価する簡便な方法の開発が, 口腔内汚染の評価・軽減に寄与するものと考える。本研究は舌に着目した口腔内残留量の評価方法を考案し, その妥当性を検討したものである。
試験食品には1個2.25gのビスコ (江崎グリコ (株)) を使用した。被験者は, 顎口腔系に異常の認められない健常成人30名 (男性14名, 女性16名, 平均年齢32.7±7.3歳) とした。
歯科医師が各被験者の口腔内をブラッシング, 舌清掃後, ビスコを自由咀嚼させ3種類の嚥下を指示 (1回嚥下, 2回嚥下, 自由嚥下) し, 直後の舌背上の残留状況をデジタルカメラにて記録した。その後歯科医師によるブラッシングと含嗽をさせ, 口腔内残留物を全て吐き出した。その残留物を乾熱乾燥後, それぞれの重量を測定 (W-score) し, デジタルカメラにて記録した画像の評価を行い, 4段階の視覚評価基準 (I-score) を作成した。W-scoreとI-scoreの相関性を検討した。また, 90枚の舌の画像を評価し算出した各段階の平均重量と試験食品の重量と比較し, I-scoreの妥当性を検討した。
その結果, W-scoreとI-scoreの相関性が認められた。視覚評価基準をもとに評価した各段階の口腔内全残留平均重量は, 評価段階が下がる毎に試験食品1個2.25gの1/2量, 1/4量, 1/8量との近似の数量を示し, 各評価段階の平均残留重量間には有意差が認められ, 評価基準として使用可能なことが示された。また, 同一被験者について舌背残留状況の再現性を検討した結果は有意な再現性を示した。同一評価者において舌背画像の初回の評価と日を改めて評価した結果と, さらに別の評価者が評価した結果は, 共に評価一致率が高く, 有意な再現性を示した。
これらのことより, 舌上の食物残留状況の視診評価から, 口腔内全体の残留重量を推測可能なことが示唆された。