抄録
高齢者の義歯使用による咬合支持の有無が, 捕食時の口唇機能に及ぼす影響について明らかにすることを目的として, 本研究を行った。対象は山梨県内某有料老人ホーム入居者で, 全身および顎口腔系に機能障害を起こす疾患を有しない健康な高齢者31名 (男性8名, 女性23名, 平均81.9歳) である。天然歯による臼歯部の咬合支持のある者 (アイヒナーの分類B3以上) は13名, ない者は18名であり, ない者は全て義歯を使用していた。口唇圧の測定装置は, スプーンに埋設したストレインゲージ式圧力センサ (共和電業社PS-2KA) を用い, 術者が圧力センサ付きスプーンに1gのヨーグルトをのせて摂食介助し, スプーンを上下の口唇で挟んで捕食する際の圧力を測定した。
その結果, 咬合支持がない場合, 有意に捕食時口唇圧は高く, 口唇圧作用時間は長く, 口唇圧積分値は大きくなる傾向が認められた。また, 咬合支持なし群の義歯未装着時を義歯装着時と比較したところ, 捕食時口唇圧, 口唇圧作用時間, 口唇圧積分値は両群間で有意差が認められた。本研究の結果より, 臼歯部の咬合支持がない場合, 口唇閉鎖の力は強くなり, 時間を延長させて代償していると推察された。