老年歯科医学
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北海道大学歯学部附属病院における老年者に対する静脈内鎮静法の検討
北川 栄二木村 幸文飯田 彰熊谷 倫恵中村 光宏亀倉 更人藤沢 俊明福島 和昭
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1991 年 6 巻 1 号 p. 11-18

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抄録

静脈内鎮静法は, 歯科治療を安全かっ快適に管理するうえで, 有効な手段である。しかし, 老年者を対象に静脈内鎮静法を施行する場合は, 成人の基準量を投与すると循環, 呼吸抑制を起こす可能性があることから, いくつかの留意点があると考えられる。そこで, 当科において, ジアゼパムまたはフルニトラゼパムによる静脈内鎮静法を行った335症例を年齢で10歳ごとに分け, 各年代ごとに呼吸, 循環動態を観察し, 老年者に対する静脈内鎮静法の管理上の問題点にっいて比較検討した。その結果,(1) 60歳以上では循環器疾患を合併し, その増悪, 発症を防ぐために静脈内鎮静法を用いた症例が80%以上と大半を占めた。 (2) ジアゼパムの必要投与量は, 60歳代で0.176±0.070mg/kg, 70歳代で0.127±0.051mg/kg, 80歳代で0.093±0.047mg/kgであり, またフルニトラゼパムの必要投与量は60歳代で0.011±0.004mg/kg, 70歳代で0.006±0.001mg/kg, 80歳代で0.005±0.001mg/kgといずれも加齢とともに減少していた。 (3) 静脈内鎮静法施行中における経皮的酸素飽和度の最低値は, 60歳代で93.4±2.4%, 70歳代で93.8±2.1%, 80歳代で91.5±4.0%と60歳代以上で有意な減少が認められた。 (4) 静脈内鎮静法施行中, 鎮静薬投与後は血圧低下傾向があったが, 年齢との相関性は認あられなかった。また, 処置開始後の血圧上昇は対照値程度までの上昇にとどまっていた。以上, 鎮静薬の投与量は少量であったが, 静脈内鎮静法により, 循環器疾患の合併率が高い老年者に対しても, 十分な鎮静状態と循環動態の安定が得られた。一方, 呼吸抑制の可能性は高く, パルスオキシメーターによる監視, 及び酸素の予防投与が有効と考えられた。

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© 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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