抄録
高齢化社会を迎えるにあたり, 歯科臨床では高齢者の歯科医療に対する問題が脚光を浴びている。歯科医療を受けている高齢者の大多数は歯科医療機関に通院している。したがって通院により歯科治療を受けている高齢歯科患者の口腔内の状況とその治療内容を知ることは重要である。高齢者に対する歯科治療の現状を明らかにするために, 東京医科歯科大学高齢者歯科治療部の外来患者を対象に高齢歯科患者の口腔内の状況とその治療内容について調査を行った。今回調査した患者数は200名 (男性84名, 女性116名) であり, 平均年齢は男性76.6歳, 女性76.5歳であった。
1. 初診時一人平均残存歯数は5.7本であった。
2. 一人平均抜歯本数は0.8本であった。抜歯処置は初診時有歯顎者の61%に行われた。
3. 保存修復処置は初診時残存歯数の3.7%, 冠橋義歯の支台歯数は初診時残存歯数の15.7%, 根面板の歯数は初診時残存歯数の1.9%であった。
4. 一人平均可撤性有床義歯製作数は1.8床であった。製作された義歯の68.3%は全部床義歯であった。
高齢者の歯科治療時には初診時有歯顎者の61%が抜歯処置を受けていた。高齢者は全身疾患を有することが多いため, 抜歯の際には細心の注意が必要と思われる。また高齢者は欠損歯数が多いため, 可撤性有床義歯による補綴が多かった。したがって義歯製作法に習熟する必要性が示唆された。