2023 年 41 巻 3 号 p. 251-257
転移・再発乳癌の遠隔転移は原則的に外科的切除は適用されない.我々は転移性卵巣腫瘍組織におけるエストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PgR),ヒト上皮成長因子2(HER2)からなるバイオマーカー発現の免疫組織学的検索が再発乳癌治療の一助となった症例を経験した.49歳,41歳時に左浸潤性乳管癌で左乳房温存術を施行されER・PgR陽性であったため,術後は放射線治療,LH-RHアゴニスト(LH-RH a)療法,タモキシフェンクエン酸塩を5年間服用した.術後6年10カ月で多発骨転移が判明し,LH-RH a療法および放射線治療,アロマターゼ阻害薬投与が開始された.LH-RH a療法開始後に増大傾向を伴う右卵巣腫瘤が出現したため乳癌術後8年で当科を受診した.MRI検査では一部充実部分を認めるものの悪性を強く疑う所見に乏しく,腹腔鏡下両側付属器切除術を行った.術後病理診断はER陽性の浸潤性乳管癌転移であった.新規内臓病変が出現したため,新たな内分泌療法としてfulvestrant(選択的エストロゲン受容体抑制薬)及びpalbociclib(CD4/6阻害剤)を導入,術後約1年間病勢制御が可能であった.本手術による外科的永久閉経によりLH-RH a投与が不要となると共に,再発病巣のバイオマーカー評価に基づく再発乳癌の治療戦略を立てる上で有用な外科的介入となった.