医療訴訟は、患者側が提訴しなければ開始されない。そこで、原告が提訴した理由を明らかにするために、治療開始から提訴までの過程で、原告がどのように「患者の病状変化と医師の行為」を解釈したのかを、3組4名の原告の逐語録から検討した。その結果、原告が「提訴する」理由として「想定外の悪い結果」を前提とした《二重の怒り》の存在があることが明らかとなった。《二重の怒り》とは、(1)医師にミスがあり、(2)さらにそのミスを医師が隠ぺいしている、という原告の主観的解釈に基づく怒りである。その医師に対して向けられた「怒り」は、原告が〈応報感情〉を抱き「真相究明」「再発防止」という提訴目的を形成していく契機となっていた。提訴は、原告の単独行為であるが、「提訴する」という行為選択は、医師と患者側との「連携的な行為 joint action」(Blumer 1969=1991)の中で形成された《二重の怒り》に基づいていた。