2022 年 21 巻 3 号 p. 75-78
今回われわれは,乳癌発症を契機に遺伝カウンセリングを実施し,母親のリンチ症候群を診断し得た1例を経験した.症例は48歳,女性.左乳房腫瘤を主訴に愛媛大学医学部附属病院乳腺センターを受診し,精査の結果,左乳癌の診断で手術の方針となった.手術目的に入院した際に認定遺伝カウンセラーによる詳細な家族歴聴取を行ったところ,初診時の問診では得られなかった母方家系の複数の大腸癌の家族歴が判明した.リンチ症候群を疑い,患者の母親に対して,遺伝カウンセリングの後に遺伝学的検査を行い,MSH2の病的バリアントを認めたためリンチ症候群の診断に至った.患者にはMSH2の病的バリアントを認めなかった.詳細な家族歴聴取を行うことで,家系内の遺伝性疾患の診断につながることが示唆された.