2022 年 21 巻 3 号 p. 70-74
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)の診療拡大に伴い,リスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy;RRM)希望の患者も増加しているが,HBOC関連婦人科癌既発症例におけるRRMについてはエビデンスが乏しい.症例は65歳,女性.63歳時,原発性腹膜癌に対し手術・化学療法による初期治療を終了し,術後2年の経過観察目的のCT検査で右乳癌を指摘された.同時にBRCA2病的バリアントが同定され,遺伝カウンセリングの結果,対側RRM,乳房再建を施行する方針となった.HBOC関連婦人科癌既発症者における乳房に対する介入の報告は限られており,各ガイドライン上もRRMの適応,予後改善効果については明記されていない.一般的には,婦人科癌が予後規定因子と考え画像サーベイランスが選択されることも多いが,各患者においてRRMとサーベイランスのいずれを選択するかが実臨床での課題である.今回,腹膜癌術後の乳癌発症症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.