抄録
短時間降雨予測(1時間以内)の予測精度向上のために、セル追跡アルゴリズムを用いた短時間降雨予測を行った。予測の初期値はXバンドマルチパラメータレーダの推定雨量と気象庁レーダ雨量の合成雨量とした。また、雨域の移動ベクトルは25mmh-1以上の降雨強度を持つ雨域に対してセル追跡アルゴリズムAITCCを用いて推定をした。予測の検証は1時間積算雨量を用いて行い、従来の領域全体を一定方向へ移流させた場合、初期値を維持させた場合とセル追跡をした場合の比較を行った。 観測された1時間積算雨量が25mmを超えるような強雨域が存在する時間帯に着目すると、従来の手法による予測ではこの強雨域の位置ずれが顕著であった。一方、本研究のセル追跡を用いた手法による予測ではこの位置ずれは小さく、より実測値に近い結果を得た。この結果の違いは、従来の手法では領域全体の平均的な移動ベクトルを推定するため、個々の雨域の移動を推定することができないことに起因する。特に本研究対象期間中は停滞性の強雨域が存在していたため、移動ベクトルの推定方法の違いが顕著であった。 以上のことより、セル追跡アルゴリズムを用いて個々の雨域の移動ベクトルを推定することで、単純に移流させる従来の手法と比べて、短時間降雨予測の精度向上が見られた。特に局所的に雨域が停滞する様な場合はこの成果が顕著であった。