抄録
わが国の森林面積の多くの部分が伐採期を迎えた人工林であるが、その多くでは間伐等の森林管理が不十分であり、降雨流出時の表面流出の発生および河川への土壌流出量の増加が懸念されている。この土壌流出の影響を評価・検討・防止するためには土壌モデルの利用が提案されているが、国内の山地斜面への適用は充分には進んでいないのが現状である。当所では山地斜面に立地する広葉樹であるコナラ林および針葉樹であるヒノキ林において2010年6月より降雨の一部が土壌に浸透せず、地表面を流出し土壌の流出を招くという現象の観測を行ってきた。本報ではこの観測結果をヨーロッパで開発された土壌流出モデルであるEUROSEMモデルに適用してその適用性を検討した。その結果、一定以上の降雨強度を持つ降雨イベントについては斜面からの表面流出を良好に再現できることが明らかになった。一方で、降雨強度の小さいイベントについては表面流出量を的確に再現できなかった。以上より、国内の山地斜面からの土壌流出は降雨強度の大きいイベントにより発生するため、EUROSEMモデルの水文サブモデルは土壌流出量を予測するうえで的確な情報を与えると考えられる。