抄録
温暖多雨な九州北部の森林流域試験地内のスギ林分に、樹冠通過雨(T)と樹幹流下量(S)の測定プロットを設定し、林外降雨量の測定結果と合わせて、遮断蒸発量(I)を推定した。測定には大型の転倒マス流量計を用いた。流量計の仕様容量(製造元の仕様に基づく一転倒水量)が200mlのものをTの測定に、500mlのものをSの測定に用いた。Tの集水面積は0.9m2、Sの樹冠投影面積は21.4m2であった。
転倒マス流量計は流入水量が多いときに一転倒あたりの水量が増加するため、Iida et al. (2012, Hydrol. Proc., 26)と同様に、各流量計に対し”静的”および”動的”な検定実験を行って補正式を決定し、観測値に適用した。合わせて、室内実験を行わないで測定した場合に蓄積される誤差について検討した。ここで”静的”検定とは流量計に注射器などでゆっくりと水を滴下して一転倒時の水量を把握するものである。また、”動的”検定とは定流量供給装置から流量計に水を注入して転倒間隔を測定し、複数の流量についてこれを行うことで補正式を得る実験である。
2007年1月~2008年5月における17ヶ月の測定の結果、検定から得られた補正式の適用した場合と、検定を行わずに仕様容量からT + Sを算出した場合とで、Iの推定値は50mm以上の差が生じ、この値は期間中のIの総量の10%近くに達することが判明した。観測地点は我が国として多雨地域にあるが、一流量計に対するTの集水面積やSの樹冠投影面積は妥当な範囲と考えられることから、月間~年間に渡る比較的長期の遮断量蒸発量推定に対しても、転倒マス流量計を用いる際には、流量計の検定実験が必要であることが示された。