抄録
川における流木は主に,枯死,風倒,河岸侵食,斜面崩壊,土石流及び森林施業といった生物的・物理的・人為的要因が複合的に作用し流出する(芳賀ら, 2006).例えば,流木の発生源である日本の山林は,森林量は年々増加しており着実に樹木が生育している一方,林業従事者の減少により十分な手入れがなされず荒廃が進み,従来山林が有していた洪水抑制機能の低下,土砂災害防止機能や,水源涵養機能などの低下による被害が報告されている(恩田,2005).さらに,地球温暖化に伴う時空間的に集中した豪雨の頻発が重なり,例えば,2014年広島土砂災害,2016年北海道・東北豪雨災害や,2017年九州豪雨災害にて大規模な流木流出が発生したことは記憶に新しい.
発生した流木は山林内や沢の狭窄部で塞き止められ,流木天然ダムを形成(堆積)し段階的に流出する(清水,2009)ことより,流木の発生-堆積・再移動-流出という一連のプロセスの理解が重要である.しかし,流木流出メカニズムを理解するために,これまでにモデル実験研究や事例研究が多く行われてきたが,流木流出の一連のプロセスに基づく物理モデルは未だ開発されていない.
そこで本研究は,北上川水系のダム貯水池上流域を対象に,斜面崩壊物理モデル(Thapthai and Komori, 2017)を応用して発生流木量を推定し,発生流木推定量を入力値とするタンクモデルを用いて堆積流木の状況を評価した.
結果として、四十四田ダム以外の4つのダム貯水池上流域(御所ダム,湯田ダム,石淵ダム,田瀬ダム)において,開発したモデルは流出流木量に関する高い再現性が得られた.対象としたダム貯水池流域において,御所ダムと湯田ダムは相対的に流木が堆積しており,石淵ダムと田瀬ダムは相対的に流木が堆積していないことが推察された.開発したモデルが他の流域でも適用できるか検証・高度化するとともに,モデルおよびパラメータの物理的意味を明らかにし,流木流出の一連のプロセスの理解を深化することが今後の課題である.