水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2021年度研究発表会
セッションID: OP-P4-06
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社会と水の相互関係に関する学際研究
「人新世のインフラストラクチャー」を志向する:人類学と社会水文学の対話から
*難波 美芸
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抄録

近年、人類学では、人間中心主義的な従来の視点を乗り越えようとする動き(ポストヒューマンの人類学)が活発化し、ヒト、モノ、動植物や霊的存在といった多様なアクター間の相互構成的な関係性から現象を捉えようとする研究が増加している。ポストヒューマンの人類学は、人間と非人間存在を対称的に扱い、一方から他方への一方向的な影響ではなく、共に作用しながら生成する過程に注目することで、より動態的に世界のあり方を捉えようとする。人類学におけるこうした動向は、社会水文学が人間社会と水との相互影響関係と共進化の再起的なあり方に注目する動きと共鳴するものと言える。これは、対象の広がりによる、単なる学際的なムーブメントではなく、人新世の時代にあってますます人間と環境との繋がりが無視できないものになってきている現実が、知の生産活動に与えた一つの作用であり、応答であるといえよう。

 社会水文学は、あくまで量的データを用いた予測を目標に掲げながらも、同時に、質的なデータやナラティブから社会を理解することの重要性も訴えている。人類学は参与観察を通した方法論的ホーリズムの観点から微視的に社会文化を捉える試みであり、それを民族誌的に記述するというアプローチを取る。本発表の目的は、これら両者の対話の可能性を模索することである。そのための議論の土台として、本発表では、まず、筆者がラオス北部に位置するルアンナムター県ルアンナムター郡で行った民族誌的調査から、流れ橋の事例を取り上げる。近年ますます高まる予測不可能性と対峙するなかで、人間社会と河川との関係はインフラによってどのように媒介されるのか、そして、インフラはいかにして、川とともに暮らす人々の生活を形作り、同時に自らの形態を変えていくのか。これらの問いに取り組んだ上で、最後に、「人新世のインフラストラクチャー」について、人類学と社会水文学との交流から考える可能性を提示する。

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