抄録
かつては受動的な生体反応として捉えられてきた炎症の消退反応は,実は組織を恒常的な状態へ帰還させるための能動的な過程であることが示されてきた。 主に多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸)由来の脂質分子である(1)リポキシン,(2)レゾルビンD,(3)レゾルビンE,(4)プロテクチンDなどが,好中球の炎症部位への遊走を停止させ,アポトーシスを起こした炎症細胞を除去し,粘膜上皮の抗微生物活性を上昇させる。アセチルサリチル酸(アスピリン)は,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase, COX)-2のアセチル化を通じて,リポキシンなどの産生を促進し,炎症の消退を促進する。選択的COX-2阻害薬は,プロスタグランディン産生抑制のみならず,リポキシンなどの炎症消退分子の産生をも阻害する。炎症消退に関する新しい知見は,炎症性疾患に対して新たな栄養療法や薬物療法を提供する。