日本集中治療医学会雑誌
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17 巻, 3 号
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今号のハイライト
総説
  • 佐和 貞治
    2010 年17 巻3 号 p. 269-278
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    かつては受動的な生体反応として捉えられてきた炎症の消退反応は,実は組織を恒常的な状態へ帰還させるための能動的な過程であることが示されてきた。 主に多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸)由来の脂質分子である(1)リポキシン,(2)レゾルビンD,(3)レゾルビンE,(4)プロテクチンDなどが,好中球の炎症部位への遊走を停止させ,アポトーシスを起こした炎症細胞を除去し,粘膜上皮の抗微生物活性を上昇させる。アセチルサリチル酸(アスピリン)は,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase, COX)-2のアセチル化を通じて,リポキシンなどの産生を促進し,炎症の消退を促進する。選択的COX-2阻害薬は,プロスタグランディン産生抑制のみならず,リポキシンなどの炎症消退分子の産生をも阻害する。炎症消退に関する新しい知見は,炎症性疾患に対して新たな栄養療法や薬物療法を提供する。
  • 今中 秀光, 西村 匡司
    2010 年17 巻3 号 p. 279-286
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    肺動脈カテーテルは心拍出量や循環動態のモニタに広く用いられてきたが,その使用により予後が必ずしも改善しないことが報告されている。そこで,侵襲的な肺動脈カテーテルに代わって心拍出量を測定する手技が開発された。動脈圧波形を分析し一回拍出量をモニタするpulse contour法,間接Fick原理を呼気ガスCO2に応用し心拍出量を計算する部分的CO2再呼吸法,下行大動脈血流速度から心拍出量を計算する食道ドップラー法などである。超音波心エコー法や経肺的熱希釈法から,心拍出量とその決定因子を評価できる。動脈圧波形から脈圧や一回拍出量の呼吸性変動をモニタすれば,容量負荷に対する反応を判断できる。中心静脈血酸素飽和度をモニタすれば,酸素の需要供給のバランスを持続的に評価できる。これら肺動脈カテーテルに代わる手技の意義と限界について概説する。
解説
  • 一二三 亨, 高橋 元秀, 諸熊 一則, 吉岡 早戸, 原口 義座, 加藤 宏, 小井土 雄一, 本間 正人
    2010 年17 巻3 号 p. 287-289
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    非外傷性のClostridium perfringensC. perfringens)感染症により血管内溶血や代謝性アシドーシスが急速に進行し,短時間の経過で死亡した劇症型の報告例がここ数年散見される。これは,C. perfringensのα毒素により血管内溶血が進行し,貧血,腎不全から播種性血管内凝固症候群,多臓器不全へと急激に進行し,死に至ると考えられている。治療法は,必要であれば外科的処置がまず考慮され,それと並行してペニシリン系抗菌薬の大量投与や高圧酸素療法のほか,持続血液濾過透析,エンドトキシン吸着,そして血漿交換などの血液浄化法も,可能性のある治療法として挙げられているが,未だに治療法は確立されていない。C. perfringensのα毒素に対する抗毒素製剤の使用は古い歴史をもつ治療法であるが,臨床医には馴染みが薄く,学会発表や論文で治療法として取り上げられていないことが多いため,今回,啓蒙的意義も踏まえて紹介する。
原著
  • 橘 一也, 竹内 宗之, 木内 恵子, 福光 一夫
    2010 年17 巻3 号 p. 291-296
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    【目的】大阪府立母子保健総合医療センター小児集中治療室(pediatric ICU, PICU)に入室した症例の実死亡率/予測死亡率比(observed mortality/predicted mortality ratio, O/P比)の年次推移を調査する。【対象・方法】2003~2006年に当センターPICUに入室した全小児症例を対象とし,心臓血管外科,それ以外の外科(以下,一般外科),循環器内科,それ以外の内科(以下,一般内科)の4群に分類した。PICU入室時の予測死亡率から,O/P比を各疾患群別,年度ごとに後方視的に調査した。【結果】全症例のO/P比は,2003年の0.61から2006年には0.30へと低下した。また心臓血管外科のO/P比も1.14から0.12へと低下した。一方,一般外科ではO/P比の低下を認めず,一般内科ではPICU入室時の予測死亡率が高く,経年的なO/P比も高値で推移した。【結論】当センターPICUのO/P比は年々低下していた。心臓血管外科・循環器内科症例のO/P比低下が,当センターPICU全体のO/P比低下に影響を与えた可能性が高い。
症例報告
  • 山田 高成, 矢島 聡, 鈴木 武志, 香取 信之, 芹田 良平, 小竹 良文, 森崎 浩, 武田 純三
    2010 年17 巻3 号 p. 297-301
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    73歳,男性。難治性非定型抗酸菌症に対し右胸膜・肺全摘出術を施行中,奇静脈・肺静脈損傷から39,000 mlに及ぶ大量出血後にICU入室となった。入室時,低用量ドパミン投与下に循環動態は安定していたが,胸腔ドレーンから100 ml·hr−1以上の出血が持続,入室12時間での総輸血量は赤血球濃厚液20単位,新鮮凍結血漿20単位,血小板濃厚液30単位に及んだ。入室後6~24時間の間,輸血治療により止血凝固系を含む血液検査値は概ね正常範囲内に維持できたが,出血量は減少しなかった。再止血術や塞栓療法は非適応と判断し,線溶亢進を疑い施行したトロンボエラストメトリでは陽性所見を欠いたが,トラネキサム酸を暫定的に投与したところ1時間で明らかに出血量減少を認め,3時間後にほぼ完全止血,2ヶ月後には軽快退院した。抗線溶薬トラネキサム酸は血小板粘着能の保護効果などにより,明らかな線溶亢進所見を得られない場合でも,その効果を発揮する可能性がある。
  • 佐々木 庸郎, 岡田 保誠, 稲川 博司, 古谷 良輔, 小島 直樹, 山口 和将, 西村 祥一, 津嘉山 博行
    2010 年17 巻3 号 p. 303-308
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    症例は,結核症の既往のない53歳男性。意識障害で救急搬送され,発熱と項部硬直より髄膜炎を疑われ,入院となった。髄液はリンパ球優位の細胞数393μl−1と増加を認め,非細菌性髄膜炎と考えられた。髄液塗抹陰性,結核菌single step polymerase chain reaction(PCR)陰性であり,確定診断がつかないまま,徐々に意識障害の進行を認め,第9病日に気道管理が必要となり,ICUへ入室した。髄液所見,脳底槽に強いくも膜炎,両側大脳基底核の脳梗塞など,臨床的に結核性髄膜炎が強く疑われたため,第10病日より抗結核薬及びステロイド投与を開始した。一方で診断のため,末梢血のQuantiFERON® TB-2G(以下QFT-2G),髄液のQFT-2G,髄液のnested PCR検査を依頼した。第15病日に髄液のQFT-2Gが陽性となり,第51病日にMycobacterium tuberculosisが培養され,確定診断に至った。髄液のQFT-2G検査は,結核性髄膜炎の早期診断に有用と思われる。
  • 池田 智子, 有森 豊, 小野 剛, 佐伯 晋成, 別所 昭宏
    2010 年17 巻3 号 p. 309-313
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    間質性肺炎の急性増悪においてエンドトキシン吸着(polymyxin B-immobilized fiber column hemoperfusion, PMX-DHP)療法の有無による臨床経過の違いを後ろ向きに検討した。対象は2005年12月~2008年5月にICUで治療した8例で,全例でステロイドパルス療法を行い,4例にPMX-DHPを併用していた(P群)。PMX-DHPはICU入室後できるだけ早期に開始し,1回4~6時間で2日間連続施行した。ICU入室時と48時間後のP/F比は,PMX-DHPを施行していなかった4例(N群)では78.8±25.6と115.7±90.8,P群では87.5±22.7と168±64.9であった。N群の1ヶ月生存率は50%,3ヶ月生存率は25%であったが,P群はそれぞれ100%,75%であった。N群では全例で気管挿管下に人工呼吸療法を行ったが,P群では1例で非侵襲的陽圧換気法を10時間行ったのみであった。
  • 安達 普至, 岸川 正信, 則尾 弘文, 大屋 聖郎, 林田 和之
    2010 年17 巻3 号 p. 315-320
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,男性。II型糖尿病等のため他院で入院加療中に意識障害を認め,紹介転院となった。重篤な肝障害の既往はなかった。来院時,意識レベルはGlasgow coma scale(GCS)6,頭部CTで陳旧性脳梗塞を認めた。腹部CTで左尿管結石による左腎盂の拡張を伴う腎盂腎炎を認めた。第2病日も意識レベルはGCS 6のままで,血中アンモニア値が241μg·dl−1と高値だった。頭部MRIでは,両側視床・両側島に左右対称性の浮腫状の変化を認め,高アンモニア血症の所見と矛盾しなかった。左尿管にステント留置後より十分な尿量が確保でき,徐々に血中アンモニア値は正常化し,意識レベルも改善した。なお,血液培養・左腎盂尿培養よりProteus mirabilisを検出した。本症例の意識障害の原因は,尿路感染症による高アンモニア血症と考えられ,その機序はurea-splitting organismであるProteus mirabilisが尿中尿素を分解し,生成したアンモニアが周囲の静脈へ移行したためと推測された。
  • 一二三 亨, 渡邉 善寛, 吉岡 早戸, 長谷川 栄寿, 原口 義座, 加藤 宏, 小井土 雄一, 本間 正人
    2010 年17 巻3 号 p. 321-325
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    症例は39歳の男性。塗装作業中にタイル洗浄用クリーナー(フッ化水素酸1.3%,フッ化アンモニウム10%を含有)を誤飲し,当院へ救急搬送された。胃管より牛乳を投与した後,ICUに入室した。フッ化水素中毒による低Ca血症に対しては,グルコン酸カルシウムを静脈投与した。また来院4時間後頃より血清K濃度が急激に上昇したため,continuous hemodialysis(CHD)を施行した。来院7時間後にtorsades de pointes(TdP)が生じたが,硫酸マグネシウム2 gを投与したところ,洞調律に回復した。TdPが生じた時の血清Mg濃度は0.8 mg·dl−1と著明な低値であり,これがTdPの原因の1つと考えられた。これは,透析液中のMg濃度が1.2 mg·dl−1と,慢性腎不全患者を対象として低値に設定されているために,フッ化水素中毒による低Mg血症に加えて,CHDによりさらに低Mg血症が悪化した可能性が考えられた。
  • 安田 治正, 三嶋 正芳, 米本 俊良, 奥山 裕司
    2010 年17 巻3 号 p. 327-332
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性。心筋梗塞に伴う左室自由壁破裂にて修復術を施行,術後心房細動となった。電気的除細動にて回復後,洞調律維持を期してピルジカイニド150 mg·day−1が投与されていた。術後第47病日,高K血症に対し透析を予定したが,心室頻拍を呈しICU再入室となった。高K血症の心室頻拍への関与は否定できず,直ちに持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)を開始した。血清K値は12時間で正常域に復したが,多形性心室頻拍が持続していたため,ピルジカイニドによる催不整脈作用を疑った。不整脈出現中,血中ピルジカイニド濃度は終始高値(最低4.62 μg·ml−1,有効治療域0.2~0.9 μg·ml−1)であった。CHDF開始後36時間で洞調律に復帰した。この時,血中ピルジカイニド濃度は3.36 μg·ml−1と,なお高値であった。CHDFによるピルジカイニドの除去効果は不十分と考えられたが,血中濃度の低下に伴い洞調律復帰が得られた。ピルジカイニド中毒による不整脈の治療に際し,可及的速やかに血中濃度を下げることが有効であり,CHDFの有用性が示された。
  • 田中 進一郎, 布宮 伸, 和田 政彦, 三澤 和秀, 鯉沼 俊貴, 小山 寛介, 湯本 絢乃
    2010 年17 巻3 号 p. 333-337
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    後天性血友病Aは,それまで出血傾向のない患者に重篤な出血症状で突然発症する,治療抵抗性で致死率の高い稀な疾患である。今回われわれはその1救命例を経験したので報告する。症例は80歳,女性。過去に出血傾向や凝固障害の既往はなかったが,食道癌術後2ヶ月目頃に突然呼吸困難を伴う大量の右胸膜外血腫を発症し,救急搬送された。活性化部分トロンボプラスチン時間の著明な延長と静脈内留置針周囲からの持続的出血を認めたが,新鮮凍結血漿は無効であった。その後,抗第VIII因子自己抗体陽性(36.0 Bethesda U·ml−1)により本疾患の診断が確定し,ステロイドと遺伝子組換え活性型第VII因子製剤の投与を開始した。自己抗体力価は入院後70日目には1.2 Bethesda U·ml−1まで低下した。この間,鼻出血や消化管出血の反復に苦慮したが,次第にその頻度は減少し,胸膜外血腫も徐々に消退したため入院後78日目に退院した。迅速な診断と治療が良好な転帰に寄与したと考えられた。
  • 須田 慎吾, 池田 寿昭, 池田 一美, 谷内 仁, 伊藤 誠, 吉田 雅治, 中林 巌
    2010 年17 巻3 号 p. 339-343
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    プロカルシトニン(procalcitonin, PCT)は全身性細菌感染症のマーカーであり,敗血症における重症度診断の指標とされている。今回,感染症を伴わないGoodpasture症候群症例で,PCTの高値を経験した。症例は66歳,男性。ステロイドパルス療法および血漿交換療法(plasma exchange, PE)を施行したが,血液透析(hemodialysis, HD)導入となり,また肺胞出血による急性呼吸不全のためにICU入室となった。入室時,PCT値の高度上昇を認めたが,ステロイドパルス療法,PEの継続により症状は改善し,PCT値も低下した。その後,細菌性肺炎により再度PCT値の上昇を認めたが,抗菌薬療法などにて軽快した。Goodpasture症候群では肺,腎など障害臓器よりPCTが産生される可能性があり,感染症を伴わない状況でも抗糸球体基底膜抗体(anti-glomerular basement membrane antibody, 抗GBM抗体)による組織傷害を反映してPCT値が上昇し得ると考えられる。本症におけるPCT値上昇は,細菌感染症の可能性に加え,抗GBM抗体による肺腎障害を考慮すべきである。
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