抄録
【目的】アルコールを多飲する患者はICUでせん妄状態を起こしやすいかどうか検討した。【方法】対象患者は,2001年7月から2005年4月までに腹部手術を受け,経過観察目的にICUに入室した65~81歳でAmerican Society of Anesthesiologists(ASA)2~3の患者83人とした。すべての患者はICU入室時には気管挿管を行っていなかった。患者は術前に飲酒歴,飲酒量,1週間の飲酒回数,種類などが聴取され,state-trait anxiety index(STAI),mini-mental state test(MMS),depression scale testなどの精神機能検査が行われた。また,術後痛やconfusion assessment methodを用いたせん妄の調査,周術期における血中コルチゾールの測定が行われた。【結果】アルコールを25 g/day以上飲酒している18人の患者のうち,7人(39%)がICUでせん妄を起こした。一方,アルコールをほとんど飲酒しない65人の患者のうち,ICU症候群を起こした患者は4人(6%)であり,アルコールを25 g/day以上飲酒している患者のICUでのせん妄の発症率は有意に高かった。また,せん妄を起こした患者の術中および術後3日目までの血中コルチゾール値は有意に高かった。術前のSTAI,MMS,depression scale score,術後のvisual analogue scale(VAS)に有意な差はなかった。【結論】アルコールを25 g/day以上飲酒している患者はICUでせん妄を起こしやすいので,せん妄への対策も行う必要がある。