抄録
症例は,既往歴に特記事項がなく,術前腎機能正常の58歳男性。直腸癌に対して全身麻酔下に直腸低位前方切除術を施行した。術中・術後早期の経過は順調で,術野感染症の予防目的でセフメタゾールナトリウム(cefmetazole sodium, CMZ)1 gを術直前から12時間毎に投与した。術後36時間目に突然,輸液負荷とフロセミド投与に抵抗性の乏尿が出現し,6時間後に無尿となった。血液・尿検査にて血中尿素窒素25.8 mg/dl,クレアチニン3.37 mg/dl,尿中ナトリウム排泄分画15.7%と上昇を認め,単純CTにて尿管閉塞所見は認めず,CMZによる薬剤性急性腎不全(急性尿細管間質性腎炎)と診断した。CMZ投与を中止し,無尿出現6時間後より持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)を開始したところ,43時間目より排尿が出現し,以後,急速な尿量増加を認めたため,48時間でCHDFを終了した。以後の経過は順調で,術後29日目に軽快退院した。