抄録
非細菌性血栓性心内膜炎(non-bacterial thrombotic endocarditis, NBTE)は,悪性腫瘍などの全身消耗性疾患に伴う血液凝固異常により心臓弁尖に血栓形成が生じる病態である。NBTEの治療は基礎疾患に対する治療と抗凝固療法がその本質であり,弁病変自体が治療の対象となることは少ない。今回,NBTEを背景として,弁周囲膿瘍を形成した1例を経験した。心内膜炎に対しては緊急手術を実施し,合併する骨盤腫瘍は二期的に対処する方針とした。術後,一時的に全身状態は安定したが,播種性血管内凝固症候群が進行し,骨盤腫瘍に対して治療介入する機会なく死亡した。NBTEは感染性心内膜炎発症の背景となる病態でもある。自験例のように,炎症が前面に現れた症例においても,NBTEの病態を十分理解することが適切な集学的治療のために肝要である。