2012 年 19 巻 4 号 p. 676-680
巨大結腸症により肺塞栓症を発症し呼吸停止および循環虚脱に至ったが,救命しえた症例を経験したので報告する。患者は67歳女性,半年前より腹部膨満があり,1週間前から全身倦怠感が出現し,近医へ向かう途中で意識消失,呼吸停止,循環虚脱に陥った。近医による用手換気で呼吸と意識が回復し,当院へ搬送された。来院時に著明な腹部膨隆と両下肢浮腫を認めた。胸部単純X線で巨大な結腸のガス像により心臓が右へ圧排されている像が,胸腹部造影CTで両側肺動脈の陰影欠損を認め血栓と考えられた。下部消化管内視鏡で消化管の減圧を行い,抗凝固療法と血栓溶解療法を開始した。第4病日に肺動脈の血栓は縮小傾向が見られ,第19病日に退院した。待機的に結腸全摘を行い,良好に経過している。肺塞栓症の塞栓源の90%以上が骨盤内静脈であり,本症例では,脱水に加え消化管拡張による腹腔内圧上昇のため血流が停滞し,肺塞栓症が発症したと考えられた。