2025 年 32 巻 論文ID: 32_R29
SGLT2阻害薬の周術期合併症に糖尿病性ケトアシドーシスが多く報告されているが,多尿で循環管理に難渋した報告も少数だが散見される。症例は,腹部手術目的に入院となった80代,女性。糖尿病に対してSGLT2阻害薬を内服中であり,術前は3日間の休薬を行った。術後1日目に多尿による高度脱水を認めたため,バソプレシン(AVP)を投与したところ尿量のコントロールに効果的であった。各種検査から,多尿の原因はSGLT2阻害薬の薬効遷延が疑われた。通常,SGLT2阻害薬投与下では尿糖排泄による浸透圧利尿作用はあるものの,体液バランスは維持されている。この恒常性維持にAVPが関与していると考えられており,今回,SGLT2阻害薬の薬効遷延に加え,手術侵襲に伴うAVP分泌不全により多尿を来したと考えられる。そのため,AVP投与が尿量のコントロールに有効であった可能性がある。