抄録
喘息重積発作に対する吸入麻酔薬を用いた人工呼吸療法中に,脳梗塞を併発した症例を経験した。患者は14歳女性,1歳から気管支喘息の既往があった。喘息重積発作にて当院小児科に入院。各種薬物療法により改善がみられないため,第2病日ICUに緊急入室となった。入室後,人工呼吸管理のもとイソフルランの吸入を開始した。徐々に呼吸状態は改善し,吸入開始から68時間後(97 minimum alveolar concentration・hour)に吸入を中止した。中止後,意識が回復せず,第6病日の頭部CTにて両側後頭葉,小脳,中脳から橋にかけての脳梗塞を認めた。脳梗塞,脳浮腫に対する治療を行い意識状態は改善したが,高度の後遺症を残した。本症例の脳梗塞は何らかの原因で生じた血栓が脳底動脈から後大脳動脈に塞栓を引き起こしたものと推測された。原因検索の結果,血管や凝固系の異常,心原性の塞栓については否定的であり,明らかな原因は特定できなかった。吸入麻酔療法中は,意識レベルの確認が困難であることをはじめ,その副作用や潜在的合併症が起こりうる。施行時にはこれらに配慮した注意深い観察が求められる。