抄録
バソプレシンは心肺蘇生時・敗血症性ショックでの有用性が報告されているが,出血性ショックでの見解は定まっていない。我々は,総腸骨動脈瘤の再破裂により出血性ショックとなった症例にバソプレシン単回静脈内投与を行い循環の安定を得た症例を経験した。症例は60歳,男性。左総腸骨動脈瘤破裂に対する緊急手術の麻酔導入後に再破裂が起こり,急速輸液・輸血,カテコラミン静注,心臓マッサージを行ったが,血圧40mmHg台,心拍数170min-1台が続いたため,バソプレシン20単位を静脈内に単回投与した。収縮期血圧80mmHg台,心拍数140min-1となり心臓マッサージやカテコラミン単回投与が不要となり,尿量も増加した。手術は総腸骨動脈の人工血管置換術が行われ,術後,精神神経障害はなく経過良好であった。出血性ショックにおいても重要臓器の循環維持にバソプレシン投与が有用であることが示唆された。