抄録
本邦ではICUにて人工呼吸をサポートする目的で長時間筋弛緩薬を比較的大量使用した報告は少ない。今回,われわれは,術中ならびに術後ICUでベクロニウムおよびピペクロニウムを比較的大量使用して人工呼吸を行った症例を経験したので報告する。症例1は62歳,男性,症例2は65歳,男性でいずれも食道癌根治手術をうけたが術前,術中とくに麻酔上特記すべきことはなかった。人工呼吸管理下に前者は74時間ベクロニウム287mgを,後者は144時間ピペクロニウム269mgを投与されたが,後者の場合人工呼吸器からの離脱と気管内チューブの抜管が円滑で早かったのに対し,前者は正常筋力の回復に24時間を必要とした。ピペクロニウムは長時間作用型,ベクロニウムは中間作用型であるにもかかわらず,このような相違がみられたことはベクロニウムの代謝産物3-OHベクロニウムに由来するものと推測された。長期にわたり,筋弛緩薬が大量に使用される場合には,使用中の薬物動態の追跡と動態力学把握のために,神経筋機能をモニターする必要性を強調した。