抄録
中枢神経障害における神経細胞死の機構が解明されつつあり,神経毒性を示すグルタミン酸の異常放出や細胞内Ca2+の蓄積が重要視されている。最近,軽度低体温(32~34℃)がこれらの機構を抑制し,脳保護・蘇生の手段として有望視されているので,その臨床応用について筆者らの症例と米国の頭部外傷例を含めて述べる。
軽度低体温療法の適応は頭部外傷,脳梗塞,くも膜下出血クリッピング術後スパスム,心肺蘇生後などであり,障害発生後6時間以内に実施する必要がある。脳指向型集中治療の下に,十分な循環血液量維持と末梢血管拡張を行った後に,血液温で32~34℃を目標に2~10日間全身を冷却する。通常の検査やモニターに加えて,内頸静脈球部血液の温度と酸素飽和度の測定が有用である。復温も重要で2~3日かけて行い,決して加温せず,また高体温は避ける。副作用では,不整脈,低カリウム血症,血小板数減少,免疫抑制,高血糖などが重要である。軽度低体温の脳保護効果は明確であり,安全で標準化された患者管理法もほぼ確立できたが,実際の施行ではより一層の慎重さを必要とする。