1998 年 5 巻 1 号 p. 55-60
急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)にneutropenic enterocolitis(NE)を合併し,敗血症性ショックに陥った症例を経験した。症例は,42歳の男性で,APLの化学療法中,白血球数が150mm-3にまで低下し,発熱,右下腹部痛を来し,さらには敗血症性ショックに陥った。この時点で汎発性腹膜炎の診断のもとに緊急開腹術を施行し,術中所見よりNEと診断した。回盲部切除を施行したが,術後も呼吸状態,循環動態ともに不安定で敗血症性ショックが遷延したため,計3回のエンドトキシン吸着療法を施行した。これによりエンドトキシン濃度は81.9pg・ml-1から14.5pg・ml-1に低下し,敗血症は著明に改善した。本疾患は悪性血液疾患の化学療法中に併発する重篤な壊死性炎症性腸炎であり,現在なお高い死亡率を有している。本症例の場合は,感染巣である壊死腸管の早期除去と,エンドトキシン吸着療法の併用が奏功し,続発する敗血症性多臓器不全を阻止することができ,救命につながったと考えられた。