2021 年 39 巻 2 号 p. 45-57
近年わが国では、SNS を介した未成年者のネット被害が増加傾向にあり、被害を防止する情報システムの提供が行われているが、これらの対策は価値財の性質を有しており、外部性等により市場メカニズムだけでは社会的に望ましい供給を実現できない可能性がある。そこで本研究では、取引関係のない受益者からの収入確保に着目し、個人の「寄付」による社会負担の可能性を分析した。具体的には、Web アンケート調査を元に、人工知能を活用した架空の「誘い出し防止アプリ」に対する寄付意思額(WTD:Willingness to Donate)の推計と分析を行った。その結果、平均的なWTD は有意に正であることが判明した。また、寄付者の選好にはバラつきが大きいことや、好ましい寄付の条件や手法には海外の先行研究と異なる点があることが判明した。これらの調査結果は、寄付を募る際には日本でもセグメンテーションやターゲティングが重要である一方、海外と同じやり方は通用しないことを示唆している。なお、本研究は有効回答率(60.5%)に課題があり、信頼性を高めた調査によるさらなる分析が必要である。