2022 年 40 巻 3 号 p. 1-12
TPP協定で盛り込まれたデータフリーフローなどのデータ流通ルールを日中間で採用の是非が通商交渉で議論されてきている。データの流通円滑化のため、日本の産業界からは内外での採用が望まれる一方、中国は、国家安全保障を優先させる考え方からその採用に慎重な姿勢を見せている。ゲーム理論によりモデルを設定すると、ルールの限定的な採用が予想されることになるところ、実際に、2020年に両国が署名したRCEPでは、安全保障に関する留保を特記した形でルールが採用された。中国は2021年9月にCPTPP協定への加入を求めると発表した。上記のモデルからは、TPP協定の現行ルールをそのまま中国で適用する形での日中間の合意は短期的には期待しにくい。TPP協定のルールを推進する日本では、中長期的な視野に立ち、TPP協定加入国の拡大などでデータ流通圏を拡大し、ルールの効用を増進させ、どの国にとっても経済的にデータ流通ルールが大きな効用となる環境を醸成していく必要がある。