2022 年 90 巻 1 号 p. II_1-II_8
青森県上北地域は土壌物理性が良好な黒ボク土が広く分布し,ナガイモやゴボウ等の根菜類の一大生産地域として知られている.著者らは黒ボク土のナガイモ畑圃場において,ナガイモ栽培の際にトレンチャーを用いて形成する植え溝の土壌理化学性を把握した.また,ナガイモ成育期間中の植え溝における土壌硬度計測と,フィールドモニタリングシステム(FMS)を用いて土壌水分および電気伝導度の推移を深度別に計測するとともに,収穫時にナガイモ塊茎の観察と品質調査を実施した.ナガイモ収穫時の11月上旬の10,30,60 cm深では,土壌圧縮による乾燥密度の増加の影響を受けたことで,5月中旬と比較して飽和透水係数は減少,また,乾燥密度は約1.2倍に増加した.さらに,30 cm以深の土壌硬度は時間経過とともに増加したことから,約半年間の成育期間を経て,植え溝における土壌物理性の変化が明らかになった.30,60,100 cm深の土壌水分飽和度は増加傾向にあり,95 cm以浅において土壌水が溜まりやすいことが示唆された.土壌水分の観測結果から,塊茎が成育肥大期に3日間程度の過湿状態に晒されたものの,収穫時のナガイモ塊茎に腐敗や奇形は認められなかった.以上のことから,FMSを用いた土壌環境観測を行うことにより,従来不明であったナガイモ成育期間中の土壌水分および土壌間隙水の電気伝導度の増減挙動が明らかになった.