抄録
近年, 社会経済情勢の変化により, 農業水利施設の維持管理組織である土地改良区等の体制が脆弱化しつつある. そこで本研究では, 安濃ダムを事例に, 維持管理体制が低下した場合等を想定した洪水放流操作の違いが, 農業用ダムの多面的機能の一つとして着目されている洪水緩和機能に及ぼす影響を解析した. そして, 洪水吐ゲートを全開状態で洪水に対応する等, 洪水放流施設の操作を行わなかった場合, ピーク流入量とピーク放流量の差が減少し, 下流地域の溢水被害の可能性が増大することを定量的に示した.この結果は, 維持管理体制の低下が洪水吐ゲートを有する農業用ダムの洪水緩和機能の低下に繋がることを示唆している.