抄録
農地が有する食料安全保障機能に係る便益は, 農地の存在そのものに由来するものであり, ごく一部の農地であっても日本国民全体に波及する便益であるという特徴を有することから, 多くの施策の費用便益分析に適用可能であるものの, 未だ実用的な結果を得られていない.本稿では農地が有する食料安全保障機能便益について, 他の代替施策と比較しながら選択型実験を用いて評価を行った.また地域食料自給率が便益評価に与える影響を調べ, 便益の共通性を検証した.分析の結果, 地域食料自給率が便益評価に影響を与えない可能性があることがわかり, また食料安全保障用に8,500ha (主食用食物の国民消費量1日分を緊急増産可能) の農地を確保した場合の1世帯あたり年間支払意思額を算出したところ, 162.9円という結果を得た.