抄録
琉球石灰岩分布地帯である沖縄県糸満市の米須地下水盆における湧水の硝酸性窒素濃度の長期間観測データの傾向は, 1990年代半ばをピークとして緩やかに減少している. 糸満市の統計データから化学肥料, 畜産排泄物, 生活排水由来の窒素負荷量の推移を原単位法によってそれぞれ推定したところ, 地下水硝酸性窒素濃度の変動傾向と一致するのは化学肥料のみであった. このことから, 本流域では化学肥料の施用が地下水質に大きな影響を与えているという推論がなりたつ. 洞くつを考慮したタンクモデルによって計算された水収支に基づく窒素収支も, この推論を支持する. また, このタンクモデルを水収支サブモデルとして援用し, 窒素収支サブモデルによって窒素の形態変化を記述する窒素動態モデルを本流域に適用したところ, 地下水硝酸性窒素濃度の長期的変動を再現できることが明らかになった.