2024 年 34 巻 2 号 p. 215-221
経営学の主要理論の一つであるストラクチュアル・ホール理論をベースに新しい科学知識の発生過程を検証する.この理論では「思考の同質性を有する人々の社会的繋がりで構成されるクラスターと,それとは異なる同質性からなるクラスターが存在する場合,この二つを繋ぐ人(=ストラクチュアル・ホール)が現れると,そこに両クラスターの情報が流入し新規性のあるアイデアが生まれ易くなる」と解釈される.その一方でこの理論を用い,任意の自然科学分野で生まれた新概念(科学論文の著者キーワード)における共起関係の時系列的観察を行い,新規性のある知識が発生する過程を議論するものはない.そこで,青色LED開発におけるGaN結晶開発研究を対象に,著者キーワードが共起関係を築いていく推移を観察したところ,後にノーベル物理学賞を受賞する画期的研究に用いられた論文キーワードが両クラスター間のストラクチュアル・ホールとして現れることを発見した.