2019 年 34 巻 p. 17-26
[目的] 近年生殖免疫において、樹状細胞(dendritic cells: DCs)やinvariant natural killer T(iNKT)細
胞など自然免疫の重要性が指摘されつつある。これまで我々は糖脂質α-galactosylceramide(α-GalCer)投与により誘導した流産マウスでは、子宮局所にDEC-205+ DCsとNK1.1+ iNKT細胞の有為な集積を報告してきたが、これら細胞の集積が流産の原因なのかそれとも結果なのかは不明であった。そこで今回我々は妊娠マウスに、予めα-GalCerを付与したDCsの養子移入を行い直接流産を誘導し得るのかを検討するとともに、原因不明ヒト流早産発症への考察を加えた。
[方法] 非妊娠C57BL/6(B6)マウス大腿骨、頸骨より骨髄を採取、IL-4、GM-CSFの存在下およびα-GalCer有無の条件で培養し骨髄誘導樹状細胞(bone marrow-derived DCs: BMDCs)を得た。これを磁気ビーズ法によりDEC-205+(CD205+)BMDCsとdendritic cell inhibitory receptor-2(DCIR2)+ BMDCsの亜分画に分離し、それぞれ同種同系妊娠B6マウス(妊娠7.5日)に養子移入し、妊娠帰結、子宮局所の各免疫細胞をフローサイトメトリーにて解析した。また妊娠iNKT細胞欠損マウス(Jα18-/-)への、非妊娠B6マウス脾臓由来NK1.1+ iNKT細胞の養子移入により流産が誘導され得るかも検討した。
[成績] DEC-205+ BMDCsはDCIR2+ BMDCsに比べα-GalCerを効率よくCD1d分子上に表出し、さらに子宮筋層、脱落膜への集積が高かった。実際α-GalCerを付与したDEC-205+ BMDCsの養子移入では高率な流産が誘導され、この際子宮局所に活性化したNK1.1+ iNKT細胞の有意な集積を認めた。さらに脾臓から採取したNK1.1+ iNKT細胞の妊娠Jα18-/-マウスへの養子移入でも、有意な流産が誘導された。
[結論] α-GalCer誘導性マウス流産では、DCsやiNKT細胞が重要な働きを担う事が示唆された。自然界にはDCs-iNKT細胞系を活性化、制御しうる様々な内因性・外因性抗原が数多く存在しており、これら流早産発症に与える影響、その担い手である自然免疫の役割は今後さらに注目されると考えられる。