抄録
現在,わが国企業年金制度は大きな変容の過程にある。これまでにも退職給付会計基準の導入やその制度の多様化など企業年金を取り巻く環境変化の胎動は見られたものの,2012年2月に発覚した投資顧問会社による年金資産消失事件を受けて一気に世間の耳目を集めることとなった。
高齢化の進展は先進国共通の事象であり,細りつつある公的年金にあって,個人の老後の所得保障として拠出建て制度を中心に職域を通じた企業年金へのアクセス拡充,参加率向上を巡る環境整備が諸外国における現下の潮流となっている。
公的年金の機能低下が不可避となっている中で,わが国においても公的年金の補完としての企業年金に期待が寄せられる。公的年金の補完を企図する企業年金の機能発揮にあたっては,そのガバナンス及び持続可能性の向上が図られるとともに制度への参加率底上げを巡る政策支援が欠かせない。職域を通じた老後所得保障の充実に向けた議論が強く望まれる。