抄録
本稿は,医療保険市場を対象に,情報の非対称性から生じるモラル・ハザードと逆選択への対処策の有効性をモデルの上で示し,官民の役割分担の意義とその在り方を検討するものである。いずれの問題に対しても契約内容を工夫することで対処策が講じられ,その効果を定量的に算出することができるものの,両者を同時に解決できる最善策は存在しない。しかし,逆選択への対処策を官民の役割分担に応用することで,パレート改善を達成できる可能性が示される。ここから役割分担の意義と在り方への手掛かりを得ることができる。ただし,とりわけ医療サービスにおいては,資源配分の効率性だけではなく公平性もまた重視される。医療サービスに関して,官には公的保険以外の介入手段も含めて熟慮する必要があり,民間保険には一層多様な役割が期待される。