抄録
認知症は,保険の世界においては縁辺的な位置づけを与えられている。それは通常の保険関係や当事者のモデルに,認知症高齢者を当てはめづらいためである。しかし高齢社会においては,認知症はむしろ標準的なプロセスであり,これに正面から対峙していく必要があろう。その典型的な場面として,いわゆる不慮の事故,介護事故,自傷他害事故などがある。認知症高齢者においては,病気と事故,事故の偶然性と蓋然性,事故に対する過失と無過失,自傷と他害の区別等々がいわば融解していく傾向にある点を踏まえて,これらに即した保険対応を模索していく必要があろう。