2019 年 2019 巻 645 号 p. 645_133-645_156
傷害保険の偶然性について,平成13年4月20日最判は,保険金請求者がその立証責任を負担すると判断したが,学説からは,傷害疾病定額保険とその故意免責等の規定が定められた保険法の施行等を踏まえて,同最判は見直されるべきとの主張もなされている。
そこで本稿では,平成22年の保険法施行後の裁判例において,保険法施行が,約款解釈上,立証責任の所在に影響を与えているか,また,事実認定上,立証の程度に影響を与えているかを検討したが,解釈や事実認定の手法を変更するほどの影響はみられなかった。
立証責任は約款・保険法の条文構造等から裁判例と同様に保険金請求者負担と解すべきである。立証の程度は事故の客観的状況について立証負担を軽減する裁判例の傾向には賛成であり,それに加えて被保険者等の動機,属性等,被保険者等の事故前後の言動等,保険契約に関する事情も慎重に検討されるべきものと考える。