保険学雑誌
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【コロナ禍における保険業の役割と今後の展開】特集
保険会社が取り組むべきパンデミックリスクファイナンスに関する一考察
―パンデミックボンドと相互支援プログラムを事例として―
伊藤 晴祥
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2022 年 2022 巻 659 号 p. 659_29-659_70

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抄録

本研究ではパンデミックリスクファイナンスは社会厚生を高めるか,保険会社の企業価値を高めるか検証を行う。パンデミックボンドを発行した場合,保険会社が150%と高い付加保険料率(θ)を設定しても,個人のリスク回避係数(λj)が0.4の場合には,個人の効用を高める。しかし,パンデミックボンドの投資家が富裕層のみの場合,平均的には富が貧困層から富裕層へ移る。パンデミックボンドのファンドを組成する等,貧困層もパンデミックボンドへの投資が可能となるような工夫が必要である。保険会社の企業価値は,パンデミックの発生確率が5%,パンデミックボンドの利回りが8%,かつ,保険会社のリスク回避係数が0.24を超えれば,高まる。相互支援プログラムを利用した場合,θが23.49%,λjが0.4,罹患率が40%であれば,個人の効用は高まる。λjが0.24かつ罹患率が40%の場合は,θを相互宝並みの8.00%にする必要がある。さらに,保険会社がリスク回避的である限り,保険会社の企業価値は高まる。しかし,期待キャッシュフローは正でも,パンデミックが発生しない限り,キャッシュフローが得られないため,他の保険商品を販売する等,収益の平準化が必要である。

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© 2022 日本保険学会
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