日本乳酸菌学会誌
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総説
酢酸菌利用の歴史と食文化
外内 尚人
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2015 年 26 巻 1 号 p. 6-13

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抄録

酢酸菌は我々にとって非常に重要な微生物であり、食酢の製造に利用される。酢は酒から作られ、原料や気候など酒と同様に各地の文化を形成した。日本の酢は、4 世紀頃朝鮮から伝えられた。古代から肉食が禁じられた中で、魚介類や野菜を調味して食す、という独自の和食文化が発達した。酢は、その調味料の一つとして用いられた。時代とともに、「鱠(なます)」や「すし」といった代表的な料理も発展した。世界的にも、先史時代、古代文明において酢はそれぞれの地域に誕生し、中世ヨーロッパでは食品保存や消毒の目的でも多く使われた。アジアでも酢は重要であり、食欲増進と雑菌抑制に用いられる。ナタデココも酢酸菌を利用した発酵食品である。酢酸菌の生理的特徴は、膜上の酸化酵素による強力な酸化能と、空気や液面との接触を維持する菌膜形成である。この2つの特徴は、自然環境下での生存戦略に関わっている。有害な酢酸を生成して他の生物の生育を妨げ、その後に自身が耐性をつけて徐々に資化していく。自身の生育を犠牲にしてまでもその生存環境を形成する、シンプルで傍迷惑な戦略と考えられる。

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© 2015 日本乳酸菌学会
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