2025 年 71 巻 1 号 p. 1-17
本論文の目的は,1970年代から80年代における少年院の読書指導の思想と実践に焦点を当て,指導の担い手である法務教官によって期待された読書の目的や機能を明らかにすることである。少年院の在院少年は図書へのアクセスに制限があり,少年院は読書への規範が明確に現れる特殊な読書空間である。法務教官が執筆した読書指導に関する実践報告によると,在院少年の改善すべき問題は主に読書能力,読書習慣,人格であると認識されていた。また読書指導に最も期待された効果は,図書のストーリーを代理的に体験することを通した人格形成であった。実際に久里浜少年院で使用されていた課題図書リストを分析すると,名作ものや伝記ものが多く選定されていた。こうした少年院における読書の相対的な位置づけを考えると,カリキュラムの中で人格の陶冶を目指すという点に大きな特徴があり,これが少年院という場において期待された読書の形であった。