日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
第10回日本ロービジョン学会学術総会
セッションID: H506
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口演Ⅴ
先天視覚障害の遺伝相談―遺伝医学的対応が主にならなかった1例
*岩田 文乃高林 雅子村上 昌
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抄録

【緒言】ロービジョンケアで対応する遺伝性および先天性の眼疾患は多様で、近年遺伝医学的情報の増加が著しい。遺伝相談や遺伝子診断についての望ましい対応を探るため、遺伝相談目的で受診した1例について希望の理由、対応、および本人の認識の変化、眼科への要望などについて検討した。

【症例】研究目的を明確に提示し、個人の推定が不可能な内容での発表について同意の得られた、先天性疾患のため低視力の男性。子供への影響を聞くため「思い切って」来院。相談を希望する動機などを確認する過程で焦燥感の軽減が認められ、さらに再来院時、遺伝は本来優先順位の高い課題でなかったととらえるなどこれまでの気持ちを振り返る契機になっており、認識の大きな変化が認められた。後日、眼科で患者が相談できる場の提供の意義や、初めから確率などの情報提供を行った場合の効果には懐疑的であるなどの感想を得た。

【考察】ロービジョンの患者は視機能による日常の影響、それまでの過程や治療の現状以外にも、眼とは直接関係ない様々な課題を抱えて生活している。しかしそこに遺伝という課題が加わると、遺伝が問題意識の多くを占めるようになることがある。一般的に医師にとっても遺伝医学的課題のほうが心理社会的課題よりも医療行為としてなじみやすく、遺伝に関する質問に対しては医学的に答えようとしがちである。しかし、遺伝に関する情報や検査を求めて受診しても、遺伝医学的対応のみでは、本人の持つ根本的な問題の解決に結びつかないことを本症例は示唆している。正確な医学的診断に基づく遺伝学的情報提供は重要であるが、相談者の本来の問題解決のためには担当者が相談の背景の把握をし、本人が自らの課題や自らにとって遺伝が持つ意味合いを的確に判断したうえで行われることが重要であると考えられた。ロービジョンケアにおける遺伝相談の位置づけや望ましい対応について更なる検討が必要であると考える。
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© 2009 日本ロービジョン学会
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