抄録
著者らは光ファイバー伝送したHo:YAG(Holmium-yttrium-aluminum-garnet)レーザー光(波長2.1μm)を血管内で照射する際に発生する水蒸気気泡の血管拡張効果および原理に関してex vivo, in vivoで検討を行った.照射方法として光ファイバー単体での照射および光ファイバー先端をカテーテル先端より内側に位置させた照射の2種類を比較しながら用いた.これらの照射方法によって発生させたHo:YAGレーザー誘起水蒸気気泡の動態を水槽内で高速度カメラを用いて経時的に調査した.生理食塩水を加圧灌流した摘出ブタ頸動脈を37℃の熱浴中に設置した.この血管内でHo:YAGレーザー光を200-800mJ/pulseで200パルス照射したところ,外径で1.1-1.5倍の血管拡張効果が得られた.測定した外径から内径を推定すると1.3-2.2倍の拡張であった.Ho:YAGレーザー光照射後の血管壁のエラスチン繊維,コラーゲン繊維のヤング率計測を行ったところ,両繊維ともにヤング率が増加していた.拡張原理は,気泡の発生による熱と気泡成長の圧力により,コラーゲン繊維が軟化した状態でエラスチン繊維が伸展し,次いでさらなるコラーゲン繊維の熱変性でエラスチン繊維が伸びたまま固定されることによると推定された.光ファイバー先端をカテーテル先端より内側に位置させた照射方式では,光ファイバー単体の照射と比較して,レーザー光や発生した熱による血管への影響が少ないと考えられる.家兎を用いたin vivo実験において,大動脈内で光ファイバーの先端をシース先端より3mm内側に位置させた照射法にて,100mJ/pulse,20パルスのHo:YAGレーザー光照射を行った.照射直後,照射1週間後ともに中膜の弾性板が伸展しており,拡張所見を示した.以上検討したHo:YAGレーザー誘起気泡による血管拡張法は,将来簡便・安価な治療デバイスに発展する可能性がある.