抄録
低出力レーザー照射(LLI)には神経の活動電位の伝導をブロックしたり,傷害を受けた神経の再生・回復を促進したりする効果があることが報告されてきた.しかし,その作用機序に関しては不明な部分も多い.本研究では坐骨神経の極興奮に対するLLI効果のメカニズムを明らかにする目的で,カエル坐骨神経における「極興奮の法則」を用いて,複合活動電位(CAP)の振幅変化に関する熱解析を行った.18匹のアフリカツメガエルを用い,両側の坐骨神経を標本として作製した.長い持続(10 ms)の電気刺激によって誘発される陰極閉回路興奮(CE)と陽極開放興奮(AE),および神経の表面温度をAr+レーザー照射中(488 nm or 514 nm; 50 mW; 30 min)に記録した.514 nmレーザー照射の場合,30分後にCEおよびAEの振幅はそれぞれ81±5%,74±7%となり,表面温度は38.9±2.4℃に達した.488 nmレーザー照射の場合,30分後にCEおよびAEの振幅はそれぞれ74±10%,42±14%となり,有意な差があった(p<0.01).また表面温度は40.9±2.5℃に達した.CEおよびAE,2種類のCAP振幅と温度変化との間の相関解析により,両者の間に2次関数で近似される強い負の相関が認められた.したがって,極興奮へのLLIによる抑制効果は主としてレーザーの熱作用によるものと結論された.