2019 年 40 巻 1 号 p. 72-76
レザフィリンPDT(photodynamic therapy)は,光感受性物質であるレザフィリンと半導体レーザーを組み合わせた治療である.皮膚光線過敏症を予防するため,レザフィリン投与後は一定の遮光期間が必要である.またPDT後2ヶ月間は,症状および内視鏡所見の注意深い観察も必要である.本稿では,レザフィリンPDTのこれら患者管理について概説する.
光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)は,腫瘍親和性光感受性物質(photosensitizer: PS)と,レーザー光を用いた局所治療である.タラポルフィンナトリウム(レザフィリン®)と半導体レーザーを組み合わせたPDT(以下レザフィリンPDT)は,食道癌に対する化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRT)の局所遺残再発に対して,2015年5月に承認された1-4).レザフィリンは既存のPSに比較して,患者が必要な遮光期間が短くなり,照度制限も緩和されている.本稿では,レザフィリンPDTの患者管理について概説する.
レザフィリンPDTを行うための準備として,照度調節可能な入院部屋の確保,レザフィリンの調達,半導体レーザー機器の点検,PDTプローブの発注,患者が遮光に必要な物品購入の説明などが必要となる.レザフィリン投与後2週間は,光線過敏症を避けるため500 lux以下の室内で生活する1-5).そのため入院の部屋については,遮光カーテンがあり,照度調節できる個室を確保することが望ましい(Fig.1a, b).照度の測定には照度計を用いるが,患者が立位になった場合の頭の位置で測定を行う(Fig.2a, b, c).照明の直下とそれ以外の場所では照度が異なるため,照明の直下で測定を行うようにする.トイレや洗面への移動で室外に出る場合は,あらかじめ患者動線の照度を測定し,500 luxを大幅に上回る場合は照明を落とすなどの工夫が必要である.500 lux以下の条件を満たす環境を整え,大部屋での管理を行っている施設もある.
Patient’s room which is adjustable according to the illuminance. (a) illuminance of 1,700 lux , (b) illuminance of 500 lux.
The measuring method of the illuminance. (a) a illuminometer, (b) inappropriate measuring position, (c) appropriate measuring position.
PSとして使用するレザフィリンは高価な薬剤であり,使用頻度も限られることから院内に常備している施設は少ない.PDT施行が決定されてから発注されることが多いが,PDT前日や直前に発注してもレザフィリンの調達が困難な場合がある.当院では,前もってPDT予定日を薬剤部に連絡し,レザフィリンを確保している.これは半導体レーザー照射に使用するPDTプローブも同様である.PDTプローブは単回使用であり,PDT初日と翌日の追加照射を考慮して,少なくとも2本用意しておくことが望ましい.プローブの不具合が発生し,PDT初日で2本のプローブを使用した場合は,翌日のためにもう1本プローブを確保する.照射を行う半導体レーザー機器についても,前日までに点検を行う.実際にプローブのキャリブレーションを行うことはできないが,電源を入れて,機器が作動すること,キャリブレーションができる状態になることを確認する.
PDTの入院は,遮光が必要となるため,通常の内視鏡治療の入院とは異なる.PDTの入院申し込みの際に外来看護師が患者パスを用いて入院での概要,退院後の生活を指導している.入院時に必要な持ち物として,遮光に必要な帽子,サングラス,マスク,スカーフもしくはマフラー,手袋,長袖の衣服を患者に準備していただく.部屋も薄暗いため,真っ黒なサングラスは転倒のリスクがあり危険である.薄めの濃さのサングラスで構わない.PDTを受ける患者は,高齢であることも多く,せん妄の対策が必要な場合もある.PDTの概要,治療の流れを外来時に十分理解していただくことで,安心して入院を迎えることができる.放射線治療後の再発病変は増大が早い場合もあり,治療前の内視鏡検査からPDT予定日まではできるだけ短い期間を設定することが望ましい1,4,6).
第2世代のPSであるレザフィリンは,第1世代のポルフィマーナトリウム(フォトフリン®)に比較して,遮光期間が短くなり,照度制限も緩和されている.フォトフリンPDTの場合,フォトフリン投与後最低1ヶ月間は,100~300 luxの薄暗い部屋で生活し,直射日光を6~8週避けなければならない3,4,7,8).レザフィリンでは,遮光期間は2週間と短くなり,照度制限も500 luxまで緩和されている(Table 1).実際に300 luxと500 luxでは,生活するにあたって大きな違いがあり,300 luxでは本も読むにも支障があるが,500 luxでは読むことが可能である.
photosensitizer | laserphyrin | photofrin |
---|---|---|
Time till irradiation | 4~6 hours | 48~72 hours |
Limit of illuminance | 500 lux | 100~300 lux |
Light shielding length | 1~2 weeks | 4~6 weeks |
Skin phototoxicity | 20~40% | 6% |
PDT当日,レザフィリンは半導体レーザー照射の4時間前に投与する.投与前には血圧,脈拍,酸素飽和度を測定する.レザフィリンを投与する際には静脈ルートを確保し,漏出がないように確実に投与を行う.投与量は40 mg/m2であり,レザフィリン1バイアルを4 mlの生理食塩水で溶解し,必要量を投与する.投与直後から部屋の照度を500 lux以下に落とす.レザフィリン投与後,血圧,脈拍,酸素飽和度を測定する.投与直後から酸素飽和度は4~6%減少する9).664 nmに吸収ピークを持つレザフィリンが血管内に増えてくると,酸素飽和度測定の赤色レーザー光を多く吸収する.そのため光センサーに届く赤色光が少なくなるため,見かけ上は酸素飽和度が低下するが,実際の酸素結合ヘモグロビンは低下していない.レザフィリン投与後,酸素飽和度が90%前後になることも少なくないが,患者は呼吸苦を訴えない.この見かけ上の酸素飽和度の低下は24時間後には,ほぼ改善すると報告されている9).
レザフィリン投与を行ってから4~6時間の間にレーザー照射を行う.患者が部屋に到着してから実際のレーザー照射までには,患者の鎮静,病変の観察,PDT可否の決定,キャリブレーション,マーキングと行うべきことが多い.そのため,レザフィリン注射の4時間後に部屋に到着すると,すべての照射が6時間以内に終了しない場合がある.レーザー照射を4時間後に開始できるように,余裕を持ってPDT処置室に来ていただくようにする.
病室からPDT施行の処置室への移動は,肌が露出しないように帽子,サングラス,マスク,長袖の衣服などを着用し,遮光した状態で移動する.PDTを行う部屋は,あらかじめ500 lux以下に設定しておく.PDTの処置時間には,1~2時間を要するため,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)などと同様に静脈鎮静を行う.対象物となる病変が固定されることがPDT成功に必要な条件となるため,患者の体動が大きい場合や蠕動が強い場合は,うまく治療することができない.十分な鎮静と蠕動抑制が必要であり,術中に血圧,脈拍,酸素飽和度をモニタリングする.酸素飽和度の測定器では,前述のように赤色レーザー光を使用している.長時間同じ指で測定を行うと,爪に水疱等が生じる場合がある10).そのため酸素飽和度を測定する指を,20~30分程度で別の指に変えるようにする.PDT初日の酸素飽和度は,見かけ上低くなっているが,鎮静下でも酸素飽和度が90%前半を保つように少量の酸素投与を行う.
PDTを施行するかどうかの最終判断を行い,施行可能と判断した後にPDTプローブを開封しキャリブレーションを行う.レーザーが目に入ると,視神経に障害を与える危険がある.専用保護メガネは,誤ってレーザーが目に照射された場合に,レーザーから目を保護するために着用する(Fig.3)3,10).PDT処置室に入る医療従事者は,施行医師,介助医師,看護師1~2名が想定される.これら全ての医療従事者が専用保護メガネを着用する必要があり,同様にPDTを受ける患者も専用保護メガネを着用する.専用保護メガネを着用すると全体の視野が暗くなり,照射中に病変にレーザーがきちんとあたっているか分かりづらい場合がある.この際はレーザー照射を一旦中断し,保護メガネを外して病変部位を確認するようにする.レーザーはプローブから直接に目にはいると障害を起こすが,モニター上のレーザー光を観察しても障害はおきない.
Protective goggles from a diode laser.
PDT施行中,プローブに粘液や血液が付着した際には,プローブを鉗子口から抜去し,先端をアルコール綿で拭き取る.この時にはプローブ先端を正面からのぞき込まないように注意し,専用保護メガネを着用する.モニター上のレーザー光が弱くなったと感じたら,機器でパワーチェックを行い,出力低下がある場合は新しいプローブに交換する.筆者らも10例に1回くらいの割合でプローブの不具合が生じた.プローブ先端の付着物が原因と感じられることが多く,内視鏡先端のフードをやや長めに装着し,フード内にプローブ先端を収めるなどの工夫を行っている.
PDT施行後,バイタルを確認して帰室する.鎮静がかかっているため,ストレッチャーを使用する.移動には布団で覆うほか,帽子,サングラス,マスク着用をして遮光する.
レザフィリン投与後2週間は500 lux以下の室内で過ごし,4週間は直射日光を避ける.また投与後3日間はサングラスを着用する.通常の場合,PDTから帰室し十分覚醒した後は,病室内での歩行は可能である.PDT当日は経口摂取をせず,輸液を行い,絶飲食としている(Fig.4).
Clinical course of laserphyrin PDT without an additional laser irradiation at the next day.
PDT翌日には内視鏡観察を行い,残存病変ありと判断した場合は追加照射を行う3,10).追加照射をしない場合は飲水を開始するが,追加照射を行った場合はさらに翌日まで絶飲食としている.飲水が開始になった翌日から食事を再開する.食事形態はESDに準じて行っている.PDT初日をday 1とした場合,day 1~3にかけて発熱や食道痛を訴える場合がある.自覚症状は個人差が大きく,全く発熱や食道痛がみられないことも少なくない.これらの症状は鎮痛薬などの投与により数日で改善することが多く,食事のアップにも影響が少ないが,症状が強い場合は絶食を延期するなどの対応が必要である.自験例では,自覚症状の有無とPDT後の潰瘍形成の程度,また治療効果には相関は見られていない.
レザフィリン投与後1~2週間後,手背に穴のあいた手袋をはめて5分間直射日光に暴露する光線過敏性試験を行う1-5,10).穴のあいた部分にマーキングを行い,内部に紅斑や水疱が見られた場合は光線過敏性試験陽性であり,500 lux以下の遮光を継続する(Fig.5a, b).所見を認めなければ陰性であり,500 lux以下の遮光は解除され,室内であれば移動における制限はなくなる.ただし室内であっても窓際の直射日光が当たる場所は,4週間避ける.光線過敏性試験が陰性となれば退院も可能であるが,4週間は直射日光を避ける,また退院後に出血や背部痛などの症状があれば病院に連絡するなどの退院指導を行う.
A skin photosensitivity test. (a) 5 minutes exposure to sun light on a glove with hole, (b) positive reaction.
PDTを行った病変部位の変化として,1~2週後から潰瘍が形成され始め,多くの場合5~6週頃から潰瘍が治癒方向に向かう.潰瘍に白色から黄白色の壊死物質が沈着するが,これはPDT施行後,1~3週に認める(Fig.6a).壊死物質はやわらかく,食事の障害になることはほとんどないが,定期的な内視鏡観察の際に吸引などで取り除いている.自覚症状は全くなくても深堀れ潰瘍が形成されていることもある(Fig.6b)ため,PDT施行後1ヶ月は可能なら毎週,少なくとも2週に1回は内視鏡検査を施行する.深堀れ潰瘍の所見のみで入院させる必要はないが,潰瘍底が明らかに脆弱である,汚い壊死物質が付着している,背部痛などの症状が出現したなどの場合は,入院のうえ絶食管理を行うなどの対応が必要である.
Endoscopic findings after PDT. (a) a necrotic substance on the PDT ulcer at day 14, (b) a deep ulceration after PDT at day 21(another case), (c) complete response at day 63.
レザフィリン投与後4週間経過すると,遮光せず外出が可能となる.しかし長時間の直射日光への露光が安全であるというデータはないため,徐々に慣らすように患者指導をしている.第1世代のPSであるフォトフリンの際には,この時期の長時間の外出で,顔面や上肢全体に発赤と浮腫を来した症例を経験した.遮光を継続することにより,1週間程度で自然軽快した.レザフィリンでは,このような光線過敏反応は10%未満と報告されている1,4,5).
この時期になると潰瘍底の壊死物質は少なくなり,潰瘍は治癒し始め,潰瘍の大きさは縮小してくる.潰瘍の縮小傾向が確認されると内視鏡検査を毎週行う必要はなく,2~3週に1回と間隔をあけることができる.深堀れ潰瘍の所見が持続しているときは,間隔を延ばさず内視鏡検査を継続する.潰瘍の周在性が広い場合,潰瘍が治癒する過程で狭窄を生じることがある.通常2ヶ月以上経って狭窄症状が出ることが多いが,早い場合には1ヶ月以内に狭窄が出現することもある.潰瘍が治癒していない状態でバルーン拡張をすることは,穿孔のリスクがあり,行うべきでない.潰瘍がほぼ瘢痕化してからバルーン拡張術を開始する.
われわれの行った治験では,肉眼的に腫瘍を認めず,潰瘍が完全に瘢痕し,生検にて癌陰性の状態をCR(complete response)inとし,さらに1ヶ月後の内視鏡所見と,生検による癌陰性をもってCR確定とした(Fig.6c).CRの判定は3ヶ月前後から可能であり,治験ではCRとなった症例は全て5ヶ月以内に判定された5).CRT後,およびPDT後の再発病変は短期間に顕在化することがあるため,PDT施行後1年間は少なくとも3ヶ月毎,それ以降も半年毎に内視鏡検査を行うことが望ましい.当院では,PDT施行3週間後に遺残が確認された症例,一旦CRとなったが2年後にPDT施行部位に再発した症例を経験した.PDT後の再発病変がPDTの適応病変であり,かつレザフィリン投与から1ヶ月経過している場合は再PDTを行うことができる.
PDTは,皮膚光線過敏症予防のための遮光期間が必要であり,そのような対応は通常の内視鏡治療では経験しない.治療を行った部位の反応も,ポリペクトミーやESD後の経過とは異なる.そのため治療後は短い期間で内視鏡検査を行い,所見の観察が必要である.本稿では,レザフィリンPDTを行うにあたって,準備から治療後の患者管理について概説した.適切な患者管理によって有害事象を減らし,低侵襲で根治性の高いPDTが,今後さらに普及することを期待する.
開示すべき利益相反はない.