日本レーザー医学会誌
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総説
レザフィリンPDTの光線過敏症モニタリング法の開発
荒井 恒憲 小川 恵美悠臼田 実男大谷 圭志前原 幸夫
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2019 年 40 巻 1 号 p. 67-71

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Abstract

レザフィリンによる光線力学的療法(Photodynamic Therapy: PDT)は2015年に局所遺残再発食道癌における新たな選択として,早期肺がん,悪性脳腫瘍に続き保険収載となった.PDTにおいては,皮膚に残留した光感受性薬剤によって生じる光線過敏症とその対策が今もって課題である.光線過敏症リスクを回避するためにレザフィリンの場合2週間の遮光期間が規定されているが薬剤の代謝には個人差があり,この期間は代謝の遅い患者に安全である様に定められたものである.この遮光期間は入院を意味するものではないが,実際には入院観察が行われることが多い.このため代謝の速い患者においては,冗長な入院を強いている可能性がある.そこで我々は皮膚に残留したレザフィリン量を蛍光計測により定量的かつ経時的に計測可能なモニタリングシステムを開発した.現状の定性的な日焼け症の判定方法は薬剤の添付文書に定められたものでありその改定はハードルが高いが,定量的な評価の実現は,患者のQOL改善および医療コスト削減の両方のメリットを生むものであるから,推し進めて行くべきであると考えている.

1.  はじめに

悪性腫瘍に対する低侵襲な選択的治療である光線力学的療法(Photodynamic Therapy: PDT)は1,2),第二世代光感受性薬剤であるレザフィリンにおいて早期肺癌,その後悪性脳腫瘍へ適用され,2012年より行われた医師主導治験により2015年に化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌における新たな選択として,保険収載となった3-5)

PDTにおける課題の一つとして,皮膚に残留した光感受性薬剤によって光線過敏症が生じるリスクがある6,7).光線過敏症を防ぐために設けられている遮光期間は,入院期間を示すものではないが,現実には入院観察を行うことが多い.我々は光線過敏症を防ぐ退院時期決定および在宅管理に関する科学的エビデンスを取得することで,患者の負担および医療コストを削減することを目指し,光線過敏症の原因である皮膚組織中薬剤濃度を定量的に計測可能なモニタリング法の開発を行った.この総説では光線過敏症の現状および開発したモニタリング方法について解説する.

2.  PDTの課題:光線過敏症と遮光管理

PDTにおける代表的な副作用である光線過敏症は,治療後に皮膚表皮に残留する光感受性薬剤と日光曝露による光増感反応によって生じる皮膚傷害である2,8,9).光線過敏症の症状は,掻痒,紅斑,浮腫,水疱があり,これらの光線過敏症の発症を防ぐために,PDT後に遮光期間が設定されている10).タラポルフィンナトリウムにおいては2週間の遮光期間が定められており,遮光期間中は直射日光を避け照度500ルクス以下の室内で過ごすこと,また投薬後3日間はサングラスを着用することが推奨されている10).この照度はJIS Z9110によれば,食堂,集会室,応接室などに相当し,屋内の活動をおよそ何でも行える程度である.皮膚表皮における光感受性薬剤残留量は,光感受性薬剤代謝速度に依存するため,光線過敏症の発症リスクは個人差が大きい10-12).そのためタラポルフィンナトリウムを用いたPDTの投薬2週間経過後に指,手掌背部を直射日光に5分曝露させて紅斑や水疱等の光線過敏反応を確認するプロトコルが定められている10).原発性悪性脳腫瘍に対するPDTの治験において,皮膚光線過敏反応は投薬から4日後に全患者の55.6%において消失,8日後には77.8%において消失,さらに16日後には全ての患者において光線過敏反応が消失することが報告されている13).すなわち定められている遮光期間は代謝の最も遅い例を基準としており,代謝の速い患者群に対しては不要な遮光入院を強いる場合もあり得る.臨床では担当医の判断で早期の退院指示をすることもあり,光線過敏症発症リスクを定量的に評価することが可能になれば,安全な早期退院運用に於ける医師判断の支援に発展する可能性もある.

3.  拡散POFを用いた経皮的薬剤蛍光計測

定量的な皮膚組織中薬剤濃度モニタリングを目指し,プラスチック光ファイバー(Plastic optical fiber: POF)製の拡散体2本を搭載した拡散反射光計測による経皮的薬剤蛍光計測システムを開発した14).開発した計測システムの外観をFig.1に示す.光線過敏症は主に表皮で生じるため,表皮に残留するタラポルフィンナトリウムを評価する必要がある.表皮の厚みは65–130 μmであるため,光学計測の際には表皮厚みと同等の光侵達長を有する蛍光励起光源を用いることが妥当である15).通常は赤色領域のQ帯吸収・蛍光を利用するが,青色のSoret帯では,皮膚における光侵達長が90–300 μmであることから,Soret帯励起により表皮に残留するタラポルフィンナトリウム量の評価が可能である16-18).本装置では,タラポルフィンナトリウムの蛍光励起光源として波長400 nm帯の青色光を採用した.タラポルフィンナトリウムのSoret帯吸収ピークはモル吸光係数が1.8 × 105 M−1cm−1とQ帯吸収ピークよりも約2倍大きく,Soret帯励起計測の方がより検出感度の高い計測が可能であると考えられる19).皮膚は,汗孔や黒子,毛根などにより光学特性が一様ではないため,計測領域が狭いと光学計測に影響を及ぼす可能性がある20).皮膚表面の平均化した蛍光計測を行うために,光照射および受光素子として長さ5 cmのプラスチック光ファイバー性拡散チップを採用し,サンプリング面積を大きくした.測定部位は上腕内側を用いた.上腕内側は,他の部位と比較して角層が薄く日焼けをしにくい部位であり,計測プローブをカフにより設置できる利点もある21)

Fig.1 

External appearance of the fluorescence sensing system. A sensor pad attached to the cuff, the monitor and laptop in the upper row. Consumable items in the lower row.

4.  拡散POFの設計

光照射および受光素子として,外径1 mm,全長1.7 mのプラスチック光ファイバー(PGU FB1000;東レ株式会社,東京)の先端から5 cmをサンドブラスト加工した拡散チップを採用した.Fig.2に開発した拡散チップの外観を示す.2本の拡散チップはそれぞれ励起光照射と蛍光受光のためのものであり,計測時にプローブが皮膚に密着するよう,柔軟な厚さ1.0 ± 0.1 mmのウレタンゲルを介して設置した.受光用拡散チップを通じて,受光したタラポルフィンナトリウム蛍光は,皮膚組織の自家蛍光および励起光の影響を抑制するために波長600 nmのロングパスフィルター(FEL0600;ソーラボジャパン株式会社,東京)を透過させ,波長400–800 nmの範囲にて蛍光スペクトルをCCD型分光器(FL4000; Ocean Optics, Inc., Dunedin, FL)により計測した.計測プローブに内装した拡散チップ付きプラスチック光ファイバーの透過率は61.4 ± 1.8%であった.予備実験として励起用および受光用拡散チップから11 mWの青色光を放射し,両拡散チップからの放射光分布をコア径200 μm,NA 0.53の石英光ファイバー(WF200/220HT53; CeramOptec Industries, Inc., East Longmeadow, MA)を移動させながら受光し照射分布計測を行った.放射光受光用光ファイバー先端の移動は長軸方向には200 μm単位にて,短軸方向には100 μm単位にて,自動ステージ(SGSP20-85;シグマ光機株式会社,東京,日本)を用いて行った.Fig.3に計測したプローブ放射強度分布を示す.計測プローブの長軸方向に放射強度のばらつきがあり,励起光照射用拡散チップからの平均放射光強度は直径200 μmの面積当たり69.2 ± 25.5 nW,蛍光受光用拡散チップからの平均放射光強度は53.4 ± 31.0 nWであった.短軸方向の放射は拡散チップを中心として線対称であり,放射光強度の半値幅は0.8 mmであった.これより,試作した計測プローブにおける蛍光サンプリング領域は縦5 cm,幅 1.6 mm,面積0.8 cm2の長方形であるとわかった.

Fig.2 

External appearance of the developed diffuse irradiation probe.

Fig.3 

Irradiation distribution of the diffuse irradiation probe.(参考文献14より引用)

5.  臨床研究と今後の展望:遮光管理による医療コスト削減

我々は経皮的薬剤蛍光計測システムを用い,中心型早期肺癌に対する根治治療としてPDTを行った患者に対して東京医科大学病院において8例,日本医科大学付属病院において2例,上腕内側の皮膚組織中薬剤蛍光計測の臨床研究を各施設の倫理委員会の承認をへて実施した22).タラポルフィンナトリウムを40 mg/m2で投与し,投与4時間後に局所麻酔または全身麻酔下でPDTを行なった.薬剤投与前,投与後5,10分後,4–5時間後のPDT時点,PDTから2–3日後の退院時,および1–2週間後に経皮的薬剤蛍光計測システムによる計測を行なった.計測された拡散反射スペクトルにはPOFの成分であるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA: Polymethyl methacrylate)の自家蛍光と,中心波長約660 nmのタラポルフィンナトリウム蛍光が計測された.接触状態などの誤差を計測毎に揃えるため波長604 nmの蛍光強度でスペクトルを正規化し,薬剤投与後のスペクトルと薬剤投与前のスペクトルの差分を取ることで薬剤蛍光を分離し,スペクトルの積分値を皮膚組織中薬剤濃度の評価値として用いた.Fig.4に皮膚組織中薬剤蛍光強度の薬剤投与後時間変化を示す22).皮膚組織中薬剤蛍光強度の薬剤投与後時間変化は,薬剤投与から2–3日後にピークを持ち,投与後2週間にかけて減少した.光感受性薬剤投与直後から単調減少するという予想に反して,皮膚組織中薬剤濃度ピークが投与数日後に遅れて出現し,その後減少することが明らかになった.以上から,光線過敏症発症リスクが最も高くなる薬剤投与数日後の外出を避け,可能であれば術後速やかに退院するのが安全であること,また,投与後数日の最も薬剤残留濃度が高い時期は,在宅管理を徹底することが必要であると分かった.今後患者ごとの代謝予測が可能なモデルを構築により,遮光期間の予測,光線過敏症予防を行い,さらに退院時期決定および在宅管理により患者の負担および医療コストの削減を目指す.

Fig.4 

Time history of integrated fluorescence intensity in all patients.(参考文献22より引用)

本研究の目的を達成するにあたり,光線過敏症モニターの医療における位置付けをどう捉えるかという問題点がある.提案する手法を診断装置として用いるためには医学的議論を待たなければならない.現状の定性的な日焼け症の判定方法は薬剤の添付文書に定められたものでありその改定はハードルが高いが,定量的な評価の実現は,患者のQOL改善および医療コスト削減の両方のメリットを生むものであるから,推し進めて行くべきであると考えている.

利益相反の開示

開示すべき利益相反なし.

参考文献
 
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